◆ 明け方 04 ◆
2010年01月18日 (月)
どんなに身体を換えようとも、どんなに月日が経とうとも、月は変わらずに空にあった。
何もかもが、自分の心すらも変わっていく中で、そのことが救いになったこともある。
けれどこんな風にこんな気持ちで、この月を見上げる日が来るなんて、考えもしなかった。
あの男のせいで、自分は今までに到達したことのない境地に立っている。
いったいこの先どうなってしまうのだろうか。
想像のつかない未来に、それでも不安感は全くと言っていいほどなかった。
理想主義で、他者を疑ってばかりだった自分はどこへ行ってしまったというのだろう。
不思議な感覚を味わっている高耶の背後で、ガラス戸の開く音がした。
振り返る間もなく、大きくてあたたかい腕が高耶を包み込む。
「眠れない夜の過ごし方を、教えてあげましょうか?」
直江の体温がじわりと伝わってきて、自分の身体が冷え切っていたことに初めて気付いた。
「……これ以上、オレをどうしたいんだ」
高耶は月をみつめたまま、微笑を浮かべてそう言った。
何もかもが、自分の心すらも変わっていく中で、そのことが救いになったこともある。
けれどこんな風にこんな気持ちで、この月を見上げる日が来るなんて、考えもしなかった。
あの男のせいで、自分は今までに到達したことのない境地に立っている。
いったいこの先どうなってしまうのだろうか。
想像のつかない未来に、それでも不安感は全くと言っていいほどなかった。
理想主義で、他者を疑ってばかりだった自分はどこへ行ってしまったというのだろう。
不思議な感覚を味わっている高耶の背後で、ガラス戸の開く音がした。
振り返る間もなく、大きくてあたたかい腕が高耶を包み込む。
「眠れない夜の過ごし方を、教えてあげましょうか?」
直江の体温がじわりと伝わってきて、自分の身体が冷え切っていたことに初めて気付いた。
「……これ以上、オレをどうしたいんだ」
高耶は月をみつめたまま、微笑を浮かべてそう言った。
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◆ 明け方 03 ◆
2010年01月17日 (日)
明け方にふと眼を覚ますと、隣にいるはずの高耶がいなかった。
リビングへ行ってみると、この寒い中、ベランダでひとり佇んでいる。
いつもとは違う雰囲気を感じて、直江は声をかけるのを躊躇った。
永い間見つめ続けてきた、孤独な背中。
空を見上げるその瞳には、いったい何を映しているのだろうか。
きっと自分には想像もつかないものを見据えているに違いない。
いつもそうだ。
同じものが見えたと思っても、高耶は瞬く間に先へと進んでしまう。
いつになっても追いつくことがない。
それでも、以前よりは近づけたと思うのは驕りだろうか?
いつか、彼と同じ境地に立てる日が来るといい。
そして、彼の見据えた先へと共に歩んで行けたなら。
「…………」
無意識のうちに強く握っていた拳を、ゆっくりと解いた。
焦ってもしょうがないのだ。
自分たちにはこの先、たっぷりの時間がある。
とりあえず今は、高耶をベッドへ戻す手段を考えなくては。
そう思って、直江はベランダへ通じるガラス戸へ手をかけた。
リビングへ行ってみると、この寒い中、ベランダでひとり佇んでいる。
いつもとは違う雰囲気を感じて、直江は声をかけるのを躊躇った。
永い間見つめ続けてきた、孤独な背中。
空を見上げるその瞳には、いったい何を映しているのだろうか。
きっと自分には想像もつかないものを見据えているに違いない。
いつもそうだ。
同じものが見えたと思っても、高耶は瞬く間に先へと進んでしまう。
いつになっても追いつくことがない。
それでも、以前よりは近づけたと思うのは驕りだろうか?
いつか、彼と同じ境地に立てる日が来るといい。
そして、彼の見据えた先へと共に歩んで行けたなら。
「…………」
無意識のうちに強く握っていた拳を、ゆっくりと解いた。
焦ってもしょうがないのだ。
自分たちにはこの先、たっぷりの時間がある。
とりあえず今は、高耶をベッドへ戻す手段を考えなくては。
そう思って、直江はベランダへ通じるガラス戸へ手をかけた。
◆ 隠し事 02 ◆
2010年01月16日 (土)
打ち合わせを装って千秋に背を向けながら、ふたりはこんなことを話していた。
「え?まじで?あのスーパー?」
「ええ。改装前のセールらしいですよ」
「げ、改装?どれくらいやるんだ」
「1ヶ月はかかるみたいです」
「あそこないと肉買うのに困るな」
「まあ1ヶ月間だけですから、2丁目の方で我慢してください」
「あっち、高いわりに質がな……」
「え?まじで?あのスーパー?」
「ええ。改装前のセールらしいですよ」
「げ、改装?どれくらいやるんだ」
「1ヶ月はかかるみたいです」
「あそこないと肉買うのに困るな」
「まあ1ヶ月間だけですから、2丁目の方で我慢してください」
「あっち、高いわりに質がな……」
◆ 隠し事 01 ◆
2010年01月15日 (金)
ふたりの様子を注意深く見ていても、毎週末逢引を重ねていることなどまるで感じさせない。
今も真顔で打ち合わせをする後ろ姿は、主従の関係そのものだ。
よくやるよ、と千秋はため息をついた。
完璧に私情を消し去っている。
隠す必要なんて別にないと思うのに。
自分も晴家も今更ふたりがどうなろうが、あーだこーだ言うつもりはない。
けれどふたりはけじめをつけたいようだ。
(水くせえ)
少しくらい慣れ合ってくれたほうが可愛気もあるのに、と千秋は思った。
今も真顔で打ち合わせをする後ろ姿は、主従の関係そのものだ。
よくやるよ、と千秋はため息をついた。
完璧に私情を消し去っている。
隠す必要なんて別にないと思うのに。
自分も晴家も今更ふたりがどうなろうが、あーだこーだ言うつもりはない。
けれどふたりはけじめをつけたいようだ。
(水くせえ)
少しくらい慣れ合ってくれたほうが可愛気もあるのに、と千秋は思った。
◆ 不機嫌 02 ◆
2010年01月14日 (木)
別に何かやらかしたつもりは無かったけど、どうやら直江は怒っているらしかった。
自分から口は開かないくせに、無表情になるからすぐわかる。
面倒くさい性格なのだ。
「いい加減にしろ」
重い雰囲気のリビングで、高耶は言った。
「言いたいことがあるなら、言えよ」
それでも黙ったままの直江に、帰る、と言い残して、玄関へと向かう。
これで追って来ないようなら相当根が深いから、逆に今日はもう放っておいたほうがいい。
けれど直江は追ってきた。
高耶の腕を掴むと、力ずくで廊下の壁に押し付ける。
「くッ………」
強引に唇を奪われた。
いつもより荒々しい直江に、高耶のテンションも若干上がってくる。
「ン──……ッ!」
もしかしていつもと趣向を変えるのが目的で、ただ怒った振りしているのではないかと疑いたくなる高耶だった。
自分から口は開かないくせに、無表情になるからすぐわかる。
面倒くさい性格なのだ。
「いい加減にしろ」
重い雰囲気のリビングで、高耶は言った。
「言いたいことがあるなら、言えよ」
それでも黙ったままの直江に、帰る、と言い残して、玄関へと向かう。
これで追って来ないようなら相当根が深いから、逆に今日はもう放っておいたほうがいい。
けれど直江は追ってきた。
高耶の腕を掴むと、力ずくで廊下の壁に押し付ける。
「くッ………」
強引に唇を奪われた。
いつもより荒々しい直江に、高耶のテンションも若干上がってくる。
「ン──……ッ!」
もしかしていつもと趣向を変えるのが目的で、ただ怒った振りしているのではないかと疑いたくなる高耶だった。
◆ 不機嫌 01 ◆
2010年01月13日 (水)
先程から高耶はずっと不機嫌だ。
言いたいことがあるくせに、自分からは絶対に口を開こうとしない。
面倒くさい性格なのだ。
気晴らしをさせようと車に乗せたものの、様子は全く変わらなかった。
ふたりでよく来るいつもの場所にやってきて、停車する。
「外へ出ましょう」
車を降りると、少し肌寒かった。
無言のまま降りてきた高耶は、目の前に広がる見事な夜景を睨みつけている。
「言わなきゃわかりませんよ」
直江は、なるべく優しく聞こえるようにそう言った。
するとしばらくして、
「寒い」
やっと高耶が小さく呟いたから、直江は自分の上着をかけてやり、その上からぎゅっと抱き締めた。
言いたいことがあるくせに、自分からは絶対に口を開こうとしない。
面倒くさい性格なのだ。
気晴らしをさせようと車に乗せたものの、様子は全く変わらなかった。
ふたりでよく来るいつもの場所にやってきて、停車する。
「外へ出ましょう」
車を降りると、少し肌寒かった。
無言のまま降りてきた高耶は、目の前に広がる見事な夜景を睨みつけている。
「言わなきゃわかりませんよ」
直江は、なるべく優しく聞こえるようにそう言った。
するとしばらくして、
「寒い」
やっと高耶が小さく呟いたから、直江は自分の上着をかけてやり、その上からぎゅっと抱き締めた。
◆ 明け方 02 ◆
2010年01月12日 (火)
明け方に目覚めてしまい寝付けなくなった直江は、ベランダに出て煙草を吸っていた。
別に室内で吸ってもいいのだが、高耶がいるときはなんとなく外に出るようにしている。
白み始めた空を見ながらぼーっとしていると。
「オレにも吸わせろよ」
元ヤンがいそいそとやってきた。
「駄目ですよ」
直江は手元の煙草の箱をポケットにしまうと、吸い途中のものも灰皿に押し付けた。
「チッ」
大して悔しそうでもなく、高耶は直江の横に陣取る。
「仕事?」
高耶は何気ない風を装って、眠れない理由を聞いてきた。
「………いいえ」
確かに週明け、とある入札案件の結果が出る予定だが、そんなことで眠れないとは知られたくないし、自分でも認めたくない。
「じゃあなんだよ」
「何でもありませんよ」
直江は笑って誤魔化すことにした。
別に室内で吸ってもいいのだが、高耶がいるときはなんとなく外に出るようにしている。
白み始めた空を見ながらぼーっとしていると。
「オレにも吸わせろよ」
元ヤンがいそいそとやってきた。
「駄目ですよ」
直江は手元の煙草の箱をポケットにしまうと、吸い途中のものも灰皿に押し付けた。
「チッ」
大して悔しそうでもなく、高耶は直江の横に陣取る。
「仕事?」
高耶は何気ない風を装って、眠れない理由を聞いてきた。
「………いいえ」
確かに週明け、とある入札案件の結果が出る予定だが、そんなことで眠れないとは知られたくないし、自分でも認めたくない。
「じゃあなんだよ」
「何でもありませんよ」
直江は笑って誤魔化すことにした。
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