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◆ ホワイトデー その5 ◆  2010年03月14日 (日)

───っ」
 高耶は苦しげな顔で、うめき声をあげた。
 必死に何かを耐えるような表情をしていながら、それでも口を開く。
「で……?結局、おまえは何くれんの?」
「あなたが一番欲しいものをあげますよ」
「あ……っ」
 横たわる高耶を背後から抱きしめるようにしてまわされた直江の手が、射精を促すように性器を扱いたから、高耶はシーツを握り締めた。
「何がいいですか?」
「……じゃあ、コレでいいや」
 高耶が後ろ手に、ナニかに触れる。
 とたんに直江は、意地悪そうな顔になった。
「コレが今、一番欲しい?」
「………ほしい」
 予想外に素直な反応に、直江は思わず笑みを浮かべる。
「じゃあ、あげる」
 その後、たっぷり時間を掛けて、高耶はホワイトデーのお返しを味わった。
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◆ ホワイトデー その4 ◆  2010年03月14日 (日)

 まだ外は明るいというのに、いつものホテルの部屋へと連れ込まれた高耶は、ぐいっと手を差し出した。
「ほら、さっさとくれよ」
 けれど直江は、すぐには動かなかった。
「私からは、追々」
「は?」
「忘れたんですか。今日は私だってあなたから貰う権利があるんですよ」
「……………」
 そういえば、東京に行く度に磨いては眺めているあのミニチュアのバイクは、直江がバレンタインデーの時にくれたものだった。
「さあ、これを着てもらいましょうか」
 直江が取り出したのは、白いTシャツ。
 胸にはもちろん"I'm a candy!"の文字がプリントされている。
「どうせ脱ぐのに……」
 高耶はブーブーと文句をたれつつも、着替えを始めた。


◆ ホワイトデー その3 ◆  2010年03月13日 (土)

 さすがに校門の真ん前には停まっていなかったけど、少し離れた場所に見慣れた車を見つけて、高耶は急いで駆け寄った。
 直江は車の外に出て、腕組みで待っている。
『来るなって言っただろうッ!』
 下校中の生徒たちの目線を気にしながら、小声で怒鳴りつけると、
「いいから乗って」
 抵抗する高耶の腕を、直江は楽々と引き寄せた。
「公衆の面前で、あまり派手なことはさせないでください」
 くっつきそうなほどに顔を寄せられえて、ノーとは言えない。
「いつかぜってーコロス……ッ!」
 助手席乗り込みながら拳を握り締める高耶に、
「それは楽しみですねえ」
 直江は余裕の笑みを見せた。


◆ ホワイトデー その2 ◆  2010年03月13日 (土)

「週末、どっかいかねえ?」
 高耶があまりにも突然に言い出したから、譲は驚いて声をあげた。
「ええ?何で?東京は?」
「別に用事ないから行かない」
「えー?そうなの?」
 譲は、半信半疑の目で高耶を見ている。
「直江さんとケンカでもしたんだ?」
「いや……そーじゃなくて……てゆーか、オレは別に直江に会いに行ってるわけじゃあ……」
 言い訳するのも空しくなるくらい事情はバレバレなのだが、それでも一応面目のために嘘は突き通す。
 とそこへ、帰ったと思った千秋が戻ってきた。
「おうぎくーん、おむかえー」
「はぁ?」
「外におむかえがきてますよー」
「………え?」
「ったく、人をパシリに使うんじゃねーよなあ」
 あくまでもいい人・千秋修平は、ぶつくさ言いながら再び帰っていった。
(おむかえ……って、まさかっ!)
 誰が来ているのすぐにわかった譲も、
「じゃあまた月曜ねー」
と手を振った。


◆ ホワイトデー その1 ◆  2010年03月12日 (金)

 週末の午後。
「そういえば」
 直江が思い出したように口を開いた。
「今度の日曜はホワイトデーですね」
「えっ?」
 もう一ヶ月かあ……早いなあ……とぼんやり考えた高耶は、ふと、嫌な考えに思い当たった。
「"I'm a candy!"なんてTシャツ、着るんじゃねーぞ?」
「ええ。そんなんで食べてもらえるとは思ってませんから」
「………何を?」
 "ナニを"とはさすがに言わなかった直江だが、ふっと意味深に笑ったから、高耶の背中に悪寒が走る。
「オレ、来週は来ないから」
「え!?」
「おまえも、うちに来なくていいから」
「ええ!?」
 ちょっと待ってください、と抗議を始める直江に、高耶は頑として考えを曲げなかった。


◆ バレンタイン その5 ◆  2010年02月14日 (日)

 明け方。
「これじゃいつもと変わらない」
 脱がされてしまったチョコレートTシャツをようやく身に着けて、高耶は直江の隣に横になった。
「いいんですよ、これで」
 高耶の髪を手で梳きながら、直江は言う。
「バレンタインデーというのはそもそも、聖バレンティヌスにちなんで恋人たちの日となった訳ですけど、常日頃から愛を確認しあっているふたりなら、いつもと同じで当たり前なんです」
「………」
 いつもなら斜めに捉えてしまう言葉も、今日は何だかストレートに心に入ってくる。
(愛の確認か……)
 直江はともかく、自分が日常において想いを伝えたことなんてあっただろうか。
「直江」
「はい?」
「愛してる」
 瞬間、直江の手が動くのを止めた。
「………高耶さん」
 言った後でやっぱり気まずくなってきて、布団を上のほうまで引っ張りあげる。
「私も、あい────
「いい。知ってるから」
 直江の言葉を強引に制して、高耶はおやすみ、と瞳を閉じた。
 その後も、直江はしばらく高耶の言葉に浸っているようだったが、そのうちに髪を梳く手がゆっくりと動き出す。
「私だって知っていましたよ。もうずっと昔から」
 独り言のような直江の言葉を聞きながら、高耶は感情を素直に伝えられる幸福をかみしめた。


◆ バレンタイン その4 ◆  2010年02月14日 (日)

 土曜日。
 直江が帰宅するとすでに夕飯の準備を終えていた高耶から、はい、とチョコを渡された。
 おっ、と思った直江だったが、
「美弥から」
と言われてあからさまにがっくりきてしまう。
 まあでも高耶のことだ。あまり期待しても、とは思っていた。
 だから気を取り直して、
「……じゃあ、これは美弥さんに」
と、帰りがけに購入してきた某有名店の袋を渡す。
 今年はチョコレートではなく、マカロンにしてみた。
「いつもわりーな」
 続けて直江は、リビングのサイドボードの奥から、隠しておいた包みを取り出す。
「これはあなたに」
 高耶は特に甘いものが好きという訳でもないし、お菓子ををもらったところで大して嬉しくもないことを直江はわかっていたから、今回は別のものを用意しておいたのだ。
「すげえ……!」
 それは鉄道模型製作が趣味の知り合いに作ってもらった、本格的なGSX250Rのオリジナルのミニチュアだった。
 高耶のバイクの写真を渡して、同じ仕様にしてもらうという凝りようだ。
 それを高耶が思いのほか喜んでくれたから、まあそれだけもよしとしよう、と思っていたら………。


 風呂からあがって、何故か高耶は寝巻きのTシャツを着るのを躊躇っていた。
「風邪ひきますよ」
「んー……」
 しばらくそれを手に難しい顔をしていた高耶は、やがて意を決したように袖を通した。
「?」
 不審に思った直江が覗き込んでみると、茶色いTシャツのその胸にはかわいらしいロゴが入っている。
  『I'm chocolate!』
 直江は思わず吹き出した。
「やっぱねーさんなんかに相談したのが間違いだった!」
 笑う直江を前にして、高耶は顔を赤くしてプリプリと怒っている。
「晴家に?」
「ほかにいなかったんだよっ」
 もちろん相手が直江だとは言わずに相談してみたのだが、バレバレだったらしくこんなものを送りつけてきたのだ。これを着れば、間違いなく喜んでもらえるから、と。
「あなたというひとは……本当に可愛いらしいひとですね」
 どうしても笑いが抑えられなくて、肩が揺れてしまう。
「うれしくねーよっ」
「じゃあ、なんと言えば嬉しいですか?」
 直江が思いつく限りの賛辞を並べ始めたから、高耶はもういい!と睨みつけた。
「で!?食うのか!?食わないのか!?」
 シャツの裾を持って、文字を見せつけてくる。
「もちろん、頂きます」
 直江は上がらない目尻のまま、そう答えた。


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